再生医療の基礎知識

ES細胞

京都大学の山中教授らがヒトiPS細胞の樹立を発表するまで、再生医療研究のもっとも中心的な存在として注目された細胞がES細胞です。

ESとは「Embryonic Stem Cell」の略で日本語で「胚性幹細胞」、つまり胚の内部細胞塊を用いてつくられた幹細胞です。そのために「万能細胞」と呼ばれることもあります。1981年にイギリスのエヴァンスがマウスES細胞を樹立したのがそのはじまりです。

ES細胞は発生初期の胚の細胞からつくられるため、受精卵に非常に近い能力を持っていて、私たちのからだを構成するあらゆる細胞へと変わることができます。ES細胞は、適切な環境さえ整えれば半永久的に維持することができるといわれています。この維持培地から、神経や血液などを培養する条件に近い環境へ移すと、その環境に応じてさまざまな細胞に分化していくこともわかりました。

  • 図:ES細胞樹立の流れ

    図:ES細胞樹立の流れ

マウスでの成功を受けて、さまざまな動物のES細胞が樹立され、1998年にはアメリカのトムソンらがついにヒトでもES細胞の樹立を成功させました。ES細胞は半永久的に維持でき、目的の細胞へと分化させることができることから、再生医療のソースとして大きな期待が集まりました。しかし、ES細胞から細胞や臓器をつくることができたとしても、それは移植される患者さんにとっては「他者」の細胞であるために、臓器移植と同じように拒絶反応の対象となってしまいます。

加えて、「胚」を破壊しなければES細胞を得ることができません。「ES細胞のもととなる胚は、不妊治療の際に不要になった「余剰胚」を、提供者にきちんと同意をとって作られています。しかし「胚」を用いるということからES細胞研究に対して違和感を持つ人も少なくなく、再生医療への応用も日本では長年禁止されていましたが、政府は、今後あらたに作成するES細胞については、再生医療に用いることを可能とする体制の整備をはじめています。