再生医療の基礎知識

幹細胞の歴史 ~iPS細胞のできるまで~

山中教授らによって誕生したiPS細胞は、突然のひらめきから生まれたものではありません。
生物の「発生」の研究は古代ギリシアから行われていて、iPS細胞は世界中の科学者が長い年月をかけて行ってきた「発生」や「再生」の研究を基にして発見されました。
ここではiPS細胞誕生までの幹細胞研究の発展の歴史を簡単にご紹介します。

多能性を持つ幹細胞の発見~ES細胞の樹立体性幹細胞の研究の発展
(分化能と遺伝子の関係、遺伝子導入など)
核移植による初期化
1952

Robert Briggs and Thomas J. King
カエルの卵への核移植

カエルの卵の核を取り除いて発生段階の進んだ胞胚核を移植し、おたまじゃくしまで成長
1954

Leroy C. Stevens
マウス精巣のテラトーマ発見

あるマウスの精巣テラトーマが多能性を持つことを発見
1957 1990 Nobel Prize

Edward D. Thomas
造血幹細胞の骨髄移植

骨髄移植による血液疾患の治療法を確立
1962 2012 Nobel Prize

John B. Gurdon
カエルの卵への体細胞の核移植

カエルAの卵の核を紫外線で破壊した後、オタマジャクシBの腸の細胞から取り出した核を移植。Bのクローンカエルに成長した。
1964

Lewis J. Kleinsmith
EC細胞の樹立

マウスの悪性奇形腫(Teratocarsinoma)から胚性がん種細胞(EC細胞)を樹立
1966

A. J. Friedenstein
骨髄細胞が骨形成能を有する

骨髄外に移植し骨髄細胞が、骨芽細胞に分化
1973

Charles Heidelberger
マウス胚性線維芽細胞を樹立

C3H10T1/2 マウス胚性線維芽細胞(間葉系幹細胞)を樹立
1974

Ralph. L. Brinster
キメラマウスの作製

EC細胞をマウス胚盤胞に注入し、キメラマウスを作製した。

Rudolf Jaenisch
マウス初期胚にウィルスDNAを導入

マウス胚盤胞にSV40ウィルスのDNAを導入
1975

Rudolf Jaenisch
白血病ウィルスを使って遺伝子導入

白血病ウィルス(レトロウィルス)マウス初期胚に感染させ、遺伝子が取り込まれるのを確認
1978 1995 Nobel Prize

Edward B. Lewis
ホメオティック遺伝子の発見

遺伝子の制御によって、体のある一部の組織や器官が別の組織や器官になることを証明
1979

Peter A. Jones
線維芽細胞の薬剤処理による多能性獲得

C3H10T1/2を薬剤処理してDNAのシトシンのメチル化を抑え、細胞分化を制御
1981 2007 Nobel Prize

Martin J. Evans
ES細胞の樹立(EK細胞)

胚盤胞の内部細胞塊の細胞を培養し、多能性を持つ細胞を発見

Gail R. Martin
ES細胞の樹立

胚盤胞の内部細胞塊の細胞を培養し、多能性を持つ細胞を発見
1985 2007 Nobel Prize

Oliver Smithies
遺伝子ターゲティング法を開発

動物個体の遺伝子を自由に改変できる方法を開発
1986

Harold M. Weintraub
分化誘導因子の発見

MyoD1をC3H10T1/2に導入すると、筋細胞に分化した。

Steen M. Willadsen
胚の核移植でクローン羊

初期胚の核移植でクローン羊を作製
1989 2007 Nobel Prize

Mario R. Capecchi
ノックアウトマウスの作製

遺伝子ターゲティング法を用いてノックアウトマウスを作製
1991

Arnold I. Caplan
間葉系幹細胞を定義

間葉系幹細胞が骨格組織に分化
1995

北村 俊雄
レトロウイルスによる遺伝子導入の安定化

高効率で遺伝子導入するレトロウイルスベクターを開発
1996

Ian Wilmut
クローン羊の作製

顔の黒い羊Cの卵子の核を取り除き、顔の白い羊Dの乳腺脂肪の核を移植。これを第3の羊Eの子宮に移したところ、顔の白い羊Dのクローン羊が誕生。
1998

James A. Thompson

人工授精の余剰胚からES細胞を樹立

若山 照彦
マウスのクローニング

マウスの卵丘細胞の核由来のマウスクローンを作製。その後、6世代まで繁殖
1999

Mark F. Pittenger
間葉系幹細胞の多能性

間葉系幹細胞が軟骨、骨、脂肪細胞、筋肉などに分化
2001

林崎 良英
理化学研究所の完全長DNAデータベース

マウスの完全長cDNAデータベースFANTOMの発表

多田 高
体細胞の初期化

ES細胞とTリンパ球を融合させ、Tリンパ球を初期化
2006 2012 Nobel Prize

山中 伸弥
マウスiPS細胞を樹立

マウスの体細胞に4つの因子を導入して初期化
2007

山中 伸弥
ヒトiPS細胞を樹立

ヒトの体細胞に4つの因子を導入して初期化
2008

山中 伸弥
ガン遺伝子を使わずにiPS細胞を樹立

ガン遺伝子c-MycなしでiPS細胞を樹立
  • 図:iPS細胞のできるまで

参考図書:黒木登志夫(2015)「iPS細胞 不可能を可能にした細胞」中公新書