再生医療の基礎知識

間葉系幹細胞の利用価値

幹細胞と言えば、ES細胞やiPS細胞がよく知られています。それらは実験研究用に人工的に作りだされた特殊な細胞です。一方、一般的な幹細胞は人間の成長を支える細胞で、幼少期は大人よりたくさんの幹細胞が存在しています。大人になり、見かけの成長がとまっても幹細胞は存在しており、一生を通して、組織が損傷したときに細胞を補填する働きをします。これらの幹細胞は、組織幹細胞(成体幹細胞・体性幹細胞)と呼ばれています。中でも、骨髄などに存在する造血幹細胞は、半世紀以上前から研究され、臨床応用も活発に行われています。この造血幹細胞移植の治療法確立は、あらゆる組織幹細胞を利用する移植治療の可能性を広げました。しかしながら、組織によっては生体内から幹細胞を分離することが困難で、治療に用いることが難しいものもあります。例えば、脳や心臓などの組織幹細胞がそれにあたります。

そこで注目されるのが間葉系幹細胞です。間葉系幹細胞は、発生過程で中胚葉から分化する脂肪や骨にすることができ、その上、成人の骨髄、脂肪組織や歯髄などから比較的容易に得ることができます。
これまでの研究で、間葉系幹細胞は中胚葉系の骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞などだけではなく内胚葉系の内臓組織や外胚葉系の神経などの細胞にも分化する能力を持つことがわかりました。

また近年、間葉系幹細胞が免疫抑制作用を持つことや腫瘍に集積する性質があることが報告され、間葉系幹細胞を移植後の拒絶防止に利用する研究や、がんの遺伝子治療薬の運び屋として利用する研究が行われています。

さらに間葉系幹細胞は、組織エンジニアリングという分野でも利用研究が進められています。組織エンジニアリングが目指すものは、「①細胞②足場③栄養」を適切に組み合わせて3次元の人工臓器や組織を作り出すことです。間葉系幹細胞から分化させた細胞を利用した軟骨細胞シートによる軟骨損傷の治療はすでに行われており、健康保険の適用が認められています。