SKIP 使いました! SKIPと私の成果
ES/iPS細胞から神経細胞を「作り分ける」新技術を開発
- iPS 細胞による神経難病研究の精度の向上-
Controlling regional identity of hPSC-derived neurons to uncover neuronal subtype specificity of neurological disease phenotypes
今泉研人氏
慶應義塾大学医学部(5年)生理学教室
論文掲載誌
Stem Cell Reports, Vol 5, 1010–1022,December 8, 2015
2015.11.27 [慶應義塾大学プレスリリース]
研究概要
慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授・今泉研人(医学部学生(5年生))、順天堂大学大学院医学研究科ゲノム・再生医療センターの赤松和土特任教授らの共同研究グループは、ヒトES/iPS細胞から脳・脊髄にある任意の神経細胞を作製することができる新たな技術を開発しました。さらにこの技術を用いて、アルツハイマー病と筋萎縮性側索硬化症(ALS)において脳・脊髄の特定の部位の神経細胞で生じる症状を、患者iPS細胞から誘導した神経細胞で再現することに成功しました。
多くの神経難病は脳・脊髄の特定の部位のみが障害され、他の部位では症状が再現されにくいため、ヒトiPS細胞を用いた研究では病変となる部位の細胞を効率よく作製する技術が必要となります。これまでに用いられてきた神経細胞の誘導方法は、部位によって異なるため、異なった部位の細胞を作り症状の比較などを行うのが難しいのが現状でした。
本研究グループは、この問題を解決するために、ヒトES/iPS細胞から脳・脊髄のあらゆる領域の神経細胞を、使用する薬剤の濃度を変化させるだけで簡便に作り分ける技術を開発しました。さらに、この技術を用いて、アルツハイマー病患者iPS細胞由来細胞(PS1-2、PS2-1)では大脳皮質ニューロン、ALS患者iPS細胞由来細胞(A3411)では脊髄運動ニューロンを中心として症状が起きることを試験管内で再現しました。
本研究の応用によって、神経難病の症状をより正確に試験管内で再現することが可能となるため、神経難病患者のiPS細胞を用いた研究の精度が大きく向上し、新たな診断・治療方法の開発に貢献することが期待されます。また、さまざまな神経疾患の症状がなぜ特定の脳領域のみで起こるのかは未だにほとんど解明されていませんが、本研究の技術によって病態解明が大きく進展することが期待されます。
本研究成果は、2015年11月5日に「Stem Cell Reports」のオンライン版に公開されました。
筆頭著者 今泉研人先生のコメント
(左)今泉研人先生(筆頭著者: 医学部5年)
(右)岡野栄之教授
本研究をはじめるにあたって、SKIPに大変お世話になりました。疾患解析に現状でどのような株が活用されているのか、入手可能な株はあるのか、神経分化が確認されている株はどれか、病態再現はどの程度まで進んでいるのか等、研究者にとって必要な幹細胞情報がSKIPには網羅的に登録されていることから、株の選別だけでなく現在の研究潮流や自身の研究を俯瞰することにも大いに役立ちました。
SKIPは、「幹細胞」に興味のある一般の方や私のような幹細胞研究をはじめたばかりの学生はもちろん、ベテランの研究者・PIの先生方まで幅広い層をカバーした重厚なデータベース、幹細胞情報提供機関であり、研究を推進するにあたっての大きな力になると思います。私の今後の研究にも引き続き活用いたします。
本研究で活用された細胞株
・KhES-1(ES細胞株: SKIP000147)
・201B7(健常者由来iPS細胞株: SKIP000001)
・253G1(健常者由来iPS細胞株: SKIP000002)
・A3411(家族性ALS患者由来iPS細胞株: SKIP000230)
・PS1-2(家族性アルツハイマー病患者由来iPS細胞株: SKIP000198)
・PS2-1(家族性アルツハイマー病患者由来iPS細胞株: SKIP000196)