SKIP 使いました! SKIPと私の成果

英ケンブリッジ大学などのチーム 
ヒト万能細胞から精子や卵子になる生殖細胞を作製

Egg and sperm race: Scientists create precursors to human egg and sperm
SOX17 Is a Critical Specifier of Human Primordial Germ Cell Fate
(Best of Cell 2015)

入江奈緒子氏
ケンブリッジ大学ガードン研究所

論文掲載誌

Cell 160, 253–268,. January 15, 2015

2014.12.24 [University of CAMBRIDGE]

研究概要

Azim Surani先生と
Azim Surani先生と

英国Cambridge大学Gurdon研究所Azim Surani教授・入江奈緒子博士ら、イスラエル Weizmann研究所、Jacob Hanna博士らの共同研究チームは、ヒトの多能性幹細胞を用いて、ヒト始原生殖細胞の発生を試験管内で再現できる効率的な分化誘導系を開発し、生殖細胞運命決定に重要な因子の特定に成功しました。驚くべきことに、その発生機構は哺乳類の生殖細胞研究の主要なモデル動物であるマウスとはまったく違うものもありました。この生殖細胞の分化誘導系はヒトES細胞だけでなくヒトiPS細胞を用いても可能なため、同研究チームが新たに同定したヒト始原生殖細胞に特異的に発現する表面抗原マーカーの組み合わせにより、疾患特異的iPS細胞などからも始原生殖細胞様細胞が分離できることを示唆しています。生殖細胞運命決定が起こるヒト初期胚が倫理的な面からも研究不可能なこと、またヒトとマウスでの細胞分化様式の相違が明らかになってきたことなどから、この系は、生殖細胞を含むヒト初期発生機構、始原生殖細胞の発生過程で起こるエピゲノム変化の解明に向けた研究だけでなく、生殖細胞関連疾患の理解、治療法の開発に貢献することが期待されます。

試験管内始原生殖細胞分化
試験管内始原生殖細胞分化

卵子や精子といった生殖細胞は次世代に形質を伝える重要かつ極めて特殊な細胞で、その発生制御機構の破綻は不妊症や生殖巣を起源とする癌などの疾患につながります。生殖細胞の元となる始原生殖細胞の運命決定はヒト発生の受精後2週間頃に起こります。しかし、倫理的な面からも、着床直後のその時期のヒト初期胚を研究に用いることはできないため、その発生機序はほぼ解明されていませんでした。そこで、着床前初期胚から樹立するES細胞や成体体細胞からも樹立可能でES細胞と類似の特徴を示すiPS細胞など多能性幹細胞を用いて、生殖細胞分化誘導系を確立することで、基礎研究や臨床研究に大きな波及効果をもたらすことが期待されます。これまで、ヒトES/iPS細胞から生殖細胞誘導の試みがいくつか報告されたものの、分化誘導効率が低く、また、誘導された細胞の特定が詳細に行われていませんでした。本研究チームは、従来の方法で培養されるヒトES/iPS細胞は、生殖細胞分化に対する反応性が低いのではないかという推測に達しました。そこで、ヒトES/iPS細胞のさまざまな培養条件を検討した結果、4つの阻害剤(GSK3β、MEK、p38、 JNK阻害)を含む“4i”培地において、細胞が生殖細胞分化に対する反応性を獲得することを見出しました。“4i” ES/iPS細胞からは分化誘導4日後に20−50%の細胞が始原生殖細胞様細胞に分化しました。その細胞は、7週齢ヒト胚由来の生殖細胞や始原生殖細胞と共通の性質を持つと言われるヒト精上皮腫セミノーマ細胞と、非常に近い網羅的遺伝子発現プロファイルを示し、始原生殖細胞がその発生過程で起こす、エピジェネティックリプログラミングの開始期の特徴を示していました。さらに、その発生の分子メカニズムに関しては、我々のグループが過去に報告したマウスの始原生殖細胞運命決定に必要な転写因子 BLIMP1 とともに、従来は主に、内胚葉系譜への運命決定において役割が知られていた転写因子SOX17がヒト生殖細胞発生に決定的な役割を持つことが明らかになりました。予想外にヒト生殖細胞運命決定機構がマウスのそれと異なることがわかり、この相違が哺乳類の多様性や進化にどのように結びつくのか、また、初期発生研究などでのモデル動物実験の解釈の仕方において、非常に興味深い知見です。また、本研究チームはヒト始原生殖細胞特異的な細胞表面抗原 TNAP と CD38 を見出し、このことは、疾患特異的 iPS細胞からの生殖細胞様細胞を高純度に分離可能であることを示唆しています。この研究成果は、ヒト初期発生やエピジェネティクス研究などを含む基本生命現象の解明や、生殖細胞関連の疾患の解明、治療法の開発に大きく貢献できることが期待されます。

Irie, N., Weinberger, L., Tang, W.W.C., Kobayashi, T., Viukov, S., Manor, Y.S., Dietmann, S., Hanna, J.H., and Surani, M.A.
SOX17 is a critical specifier of human primordial germ cell fate. (Best of Cell 2015)
Cell 160, 253–268. 2015

筆頭著者 入江奈緒子博士のコメント

Jacob Hanna博士と
Jacob Hanna博士と

本研究で樹立された始原生殖細胞特異的遺伝子NANOS3-mCherryレポーターヒトES細胞の、野生型、BLIMP1欠損、SOX17欠損細胞株はSKIPにも登録されています。SKIPは論文に掲載された様々な幹細胞株の情報が素早く効果的に検索でき、研究プロジェクトの飛躍的な進展を助長する素晴らしいツールだと思います。また、ICD(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)から、細胞株を検索できるのも大きな利点だと思います。ここから、新たな共同研究が始まるなど、協調的な効率による、幹細胞関連研究のますますの発展が期待されることと思います。

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