幹細胞の基礎知識

臨床応用における組織幹細胞と多能性幹細胞の関係

図:組織幹細胞
図:組織幹細胞と多能性幹細胞の関係
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組織幹細胞は、特定の細胞種に分化する性質を持ちますが、培養皿の中である程度しか増殖しません。治療効果を持つ組織幹細胞を体内から確実に採取でき十分量培養できる場合には、組織幹細胞による細胞療法が有効です。しかし、一般には治療に必要な多くの細胞を得ることができません。組織幹細胞を用いた治療法の中で安全性と有用性が確認されているのは、白血病などの血液腫瘍性疾患に対して造血幹細胞を移植する骨髄移植で、最も研究の進んでいる分野です。

一方で、多能性幹細胞はわたしたちのからだの中のどのような細胞にもなる(分化する)ことができ、培養皿のなかではほぼ無限に増殖します。この性質は、臨床応用を考えた際の適用範囲の広さと供給量という点で大変優れています。

しかしこの細胞を動物にそのまま移植すると、いろいろな細胞に秩序なく分化してテラトーマという腫瘍を形成してしまいます。このため多能性幹細胞を細胞治療に用いる際には、体内での細胞運命の決定の秩序を参考にして、培養器の中で細胞を人為的に分化誘導し、それぞれの治療に必要とされる細胞を注意深く作製しなければなりません。

生体内において、幹細胞の分化は細胞外環境に大きく制御されています。培養器の中でも多能性幹細胞を目的の細胞に分化させるには、生体内環境を再現するよう、培地の成分や培養時間などの培養環境を時空間的に操作制御することが必要となります。

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