再生医療と幹細胞

がん

がん(悪性新生物)は昭和 56 年(1981年)以降、日本における死亡原因1位の疾患です。平成25年のがんによる死亡者の割合は28.8%で、全死亡者のおよそ3.5 人に1人は、がんが原因で死亡したことになります。
 
わたしたちのからだは、約60兆個の細胞でできていますが、そのうち1兆個程度が毎日新しい細胞と入れ替わっています。新しい細胞は細胞が分裂することによって生まれます。細胞の中には遺伝情報を担っているDNAがあり、細胞が分裂する前にDNAは複製され分裂前と全く同じDNAが新しい細胞に受け継がれるようになっています。とはいえ、DNAには膨大な情報が含まれているので、複製されるときにエラーが起こることもあります。小さなエラーはほとんど修復され、エラーが大きい細胞は自然に死んでしまうように調整されています。

図:がん幹細胞とは
図:がん幹細胞とは
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ところが特定の遺伝子が変化すると、細胞は際限なく増殖するようになります。大きなエラーが起こっても自然死することなく増殖します。そうした細胞が「がん組織」を構成します。がん組織の中には、未分化な「がん幹細胞」と分化した「がん細胞」が存在することが明らかになってきました。がん幹細胞は正常な幹細胞と同様に、「自己複製能」「多分化能」両方の性質を持っています。がん幹細胞は、それ自身は組織に悪さをすることはありませんが、分裂して自己複製をしながら増殖し続けます。また、分裂した一方は不安定ながん細胞に分化し、悪性度の高い腫瘍を形成します。がん細胞はエラーをそのまま複製したり、新たなエラーを起こしたりしながら、どんどん増殖し続けます。がん細胞は脱分化してがん幹細胞になることもあります。

図:がん幹細胞とがん細胞の関係
図:がん幹細胞とがん細胞の関係
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さらに、がん幹細胞は最初に発生した組織から抜けだし、血液やリンパ液に入り込んで体じゅうをめぐり、遠く離れた別の組織で分裂・増殖して腫瘍を形成します(湿潤・転移)。固形がんの死因のほとんどは、がんが湿潤、転移したことによるものです。

従来の化学療法や放射線治療は、悪性腫瘍を形成するがん細胞のみを攻撃するものがほとんどでした。がん細胞は分裂が活発なため、分裂時に起こる性質を標的とします。
しかしながら、がん幹細胞は活発には分裂せず、また強い抗酸化性を持つため放射線治療や抗がん剤も効果がありません。
抗がん剤などでがん細胞だけを攻撃し悪性腫瘍が消えたように見えても、がん幹細胞は生き残り、また新しいがん細胞を生み出して再発や転移を起こすのです。

1997年に白血病がん幹細胞が発見された1)のを皮切りに、世界中でがん幹細胞の研究が活発に行われています。
がん幹細胞の概念が導入され、がんの発生や転移、再発の機構に関する解明が進むことで、がんの予防、診断、治療法がめまぐるしく変化する可能性があります。

今後は、患者ごとにがんの遺伝子や微小環境を解析し、個々の特性に合わせ、最小限の負担で最大の効果をもたらす個別化治療が中心となっていくと考えられています。

日本で行われているがん幹細胞に関する最近の研究をご紹介します。

がん幹細胞のマーカーを同定

肝臓がん幹細胞マーカーCD13を同定(大阪大学)
癌幹細胞マーカーCD44vの発現が乳癌の肺への転移を促進するメカニズムを解明(慶應大学)
大腸癌発生と腸の幹細胞の制御に必要な重要分子を発見(東京医科大学)

眠っているがん幹細胞に分裂を起こさせ、抗がん剤で治療

がん幹細胞の撲滅による新しいがん治療法の開発に成功(九州大学)

がん幹細胞を正常細胞にする

未分化型肝癌に1種類のマイクロRNAを導入し正常細胞化(鳥取大学)
アクチン細胞骨格の動態が脂肪分化を誘導するメカニズムを解明(慶應大学)

がん幹細胞の微小環境を解明

がん幹細胞から生まれる細胞が幹細胞自身を養う(岡山大学)
術後長期間を経た乳がんの再発、転移メカニズムを解明 (独立行政法人国立がん研究センター)

がん細胞から人工的にがん幹細胞を作製

iPS細胞と同じ手法で、大腸癌細胞から大腸癌幹細胞を作製(神戸大学・京都大学)

最先端の次世代がん診断システム開発へ

血液中のマイクロRNAを計測して、がんを診断する(国立がん研究センター他)

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